経済展望

原発の比率低下は「経済重視原発容認」対「理想主義的反原発」というイデオロギーの問題ではなく、既存電力会社の電力料金よりも低料金で電力・エネルギー供給や自家発電ができるビジネスモデルを創り上げる企業が出現して価格競争で、既存電力会社を打ち負かせば急速に進むだろう。

要するに、太陽光発電コージェネや自家発電や蓄電設備のコストが、原発コストを抱える既存電力会社の電気料金より安くなってしまえば、人生観、価値観、イデオロギーや政治的立場などは関係なくなって、企業も個人も、安くて安全な方ものを買うということだ。
既存電力会社よりも安い電力を売る企業があらわれ、付加価値を売る企業があらわれ、買電よりも安くつく自家発電システムが販売されれば、個人も企業も、既存電力会社離れを起こすだろう。
既得権益を政治的に守るという異常な政策が行われなければ、こうしたことが起こってくると予想する。

おそらく、既存電力会社の経営は高コスト体質なので、今の電気料金というものは昔のJALの正規航空運賃のようなものだろう。同じ機体を使用しても低価格を実現する航空会社があらわれたり、流通の変化で格安航空券が一般化するのと同様、太陽光パネル風力発電機本体のコストが大きく変わらなくても、新しい事業者が新たな経営手法で手がければ電力の販売価格はかなり安くなるのではないだろうか。

太陽光発電や自家蓄電池など電力自給設備のコストは大量販売で急速にダウンするだろう。
こうした分散、自給型設備の普及は、電力会社からの買電を減少させるだろう。
今まで電気代として電力会社に払っていた支出が減少して、そのかわり太陽光発電や蓄電設備を購入する支出に回ることになる。
一般家庭向け消費財市場については、冷蔵庫、テレビ、エアコン、パソコン、ケータイという既に普及が一巡してしまった商品の後、次の有望、家庭用一般大型消費財としてこの太陽光発電や蓄電池、コージェネ燃料電池は大きな市場になるだろう。
これは、一般家庭向け電気製品として弱電メーカーにとっては極めて大きな売上の期待できる成長カテゴリーとなり、販売チャンネルとなる家電量販店、住宅設備メーカー、施工会社、メーカー直販などにとっては、非常に大きな売上を期待でき、単価の高い商品である。
今後の一般民生用輸出商材としても有望である。

企業も、コストダウンの為、既存電力会社からの買電料金と、新規電力事業者からの買電料金、自家発電設備導入コスト、ガス等他のエネルギーでのコストとのシビアな比較を行うようになるだろう。

原発の発電コストは補償・賠償や廃棄物処理や立地対策や送電ロスを正しく算入計算すれば、極めて高価であることが判明した。今後、既存電力会社には、原発を維持しても莫大な安全対策費用がにしかかり、賠償コストや、危険を前提とした保険あるいは準備金コスト、廃炉費用、廃棄物処理費用、放射線リスクが知られたことによる雇用コストの増大がのしかかり、電力料金値上げを政治的に主張し、おそらくは電力料金は値上げされていくであろう。

既存電力業界が自らの利益保護の為に電気料金値上げを政治に認めさせると、結果的には、料金値上げによって既存電力会社が価格競争力を失っていくことになる。

現状では、まだ家庭用太陽光発電などは保護政策としての消費者負担転嫁システムである電力買い取り制度に依存しているので、電力会社や政治が電力買取り条件を不利にすれば成り立たない脆弱性をもっている。しかし、低コストの蓄電池普及で安定しない自家発電分を夜間に回すなど平準化して使用したり、不足分はガス発電やコージェネで補うなら、電力会社との売買電を最小限にしたり止めたりする選択肢が生まれてくる。

太陽光発電が現状の売買電制度と設置コストでは、元が取れるまで15年ほどという。
今後は、家電流通や住宅設備関係やメーカーやガス会社などが猛烈な販売競争をして、メーカー。施工業者間の価格競争が激しくなるだろう。大量販売・流通により、おそらく、かってのパソコンの低価格化と性能進化のように急速に、太陽光発電設備の低価格化と発電効率の向上が進むだろう。
また家庭用蓄電池の価格も急速にダウンしていくだろう。
設置価格が半額になれば15年ではなく8年ほどで元が取れるようになる。さらに性能進化で発電量があがれば、買電で補う電気代が減っていき、売電量が増大していく。
電力買取価格保護政策は高価格の特定産業の育成保護策という側面があり、コストの一般消費者への転嫁にすぎない仕組みの電力買い取り制度は永続的なモデルではない。

自家用蓄電、晴天時昼間発電分を夜間や雨天時に回して使用することで、自給度を高めることと、原発の本当のコストが税金+電力料金として知らない間に負担さされていることと、どちらが高コストであるか?

仮に、太陽光発電設置コストが現在の半額になり発電量が現在の2倍の性能となって、自家使用分が自給できるようになったとすれば、購入に踏み切れる価格は、従来の電気料金×自家発電・蓄電施設費用耐用年数である。仮に耐用年数20年とし従来毎月1万円の電気代を使っていたとすれば、年12万×20年=240万円 が分岐点になる。
もし、ここで、既存電力会社が電気代を1.5倍に値上げしたとすれば、月1.5万×12=年間18万円 18万円×20年=360万が分岐点になる。
既存電力会社が料金値上げをすればするほど、太陽光発電コージェネなど自家発電設備への価格要求は緩くなって、消費者が、太陽光発電、自家発電、自家蓄電に踏み切る敷居が低くなる。

原発の危険性とコストが顕在化して脱原発の潮流が生まれ、新エネルギーの開発・拡充を新たな成長産業として多くの企業人が注目する中、原発産業の保護に固執して日本のブランド力を下げ、既存電力会社の保護と電力会社からの発注による利益を守るために電力コスト上げて国内産業の競争力にマイナスをもたらし、ウランやプラント購買で厳しい国家財政から巨額の費用を海外企業に支払い、新たな産業の成長を阻害する経団連や電力会社の関係者は反社会的だと思う。

脱原発の流れを利用して成長する産業の生産・事業地は、できるだけ、現在、原発の金に経済を依存してしまっている地域で行うのが良い。給付金依存と雇用で生活基盤が原発に依存し原発への不安を封じてしまっている地域がある。これらに地域に生産・事業地を進出させ、雇用を生み出し、地域経済に利益を落とすと良い。金で買われた心は、金で買い戻せば良い。

さて、ここまで書いたが、実は、既存電力会社の中で原子力は、ほんの2割ほどの部門。すべて停止してもただちに電力供給に大きな影響力があるほど大きな分野ではなく、実は、国の補助金投入で成り立っていることにされてきた隠れた不採算部門である。電力会社の8割以上は非原子力であり、現状、再生可能エネルギーにおいても、既存電力会社は技術も実績も現時点トップの位置になる(自由化してなかったから当然だが)。原発を持っているのも電力会社だが、今、メガソーラーの営業実績があるのも電力会社であるし、当然ながら火力発電の圧倒的最大手だ。また、原発メーカーの日立や東芝は、再生可能エネルギー関連設備でも最王手であり、今後、その社内では、原子力関係部門が縮小され、再生可能エネルギーへの変換での需要拡大にともない対応が既に取られている。

自由化により、再生可能エネルギーの新事業者や、ガス発電や、自家発電設備関係など、新規参入などの刺激を受けることで、既存の電力会社の原子力以外の部門も対抗上、活性化し、メーカーの投資がシフトすれば、エネルギー新旧企業群の勢力争いの結果がどうあれ、エネルギーシフトは進むだろう。

既存の電力会社の人やメーカーの中の原子力以外の部門の方達は、社内での発言力を増して自分の関わる分野を発展させ、業態を時代の変化に合わせて変化させていけば、この脱原発の流れをを自らの利益を損ねるものとして妨げる必要はなく、市場の変化であるとわりきり、自由化された後の市場で、エネルギー産業企業の先行者としての実力でトップを走り続けることもできると思う。