2008年6月7日のクレオールでの演奏会

2008年6月7日(土) 神戸北野のクレオールでの演奏会の、プログラムから、曲目解説など。

2008年6月7日(土)15:30開場 16:00開演 2000円
アコースティック・ライブ クレオール http://www.papageno.jp/creole/
〒650−0003神戸市中央区山本通り2−3−12 北野ハンター坂

=プログラム=


深澤倫子:
ハリネズミのためのやる気のない子守唄  (初演)
夕べ見た夢 ver.080607 (改訂初演)
ピアノ:深澤倫子

近藤浩平
アトリエの古い画帳 作品89 (再演)
風変わりな場所 作品97 (初演)
ピアノ:轟木裕子

板津昇龍: 10の小さなピアノ曲集「Magic Hands」 (再演)
ピアノ:多久潤子

檜垣智也: 新作2008(初演)
ピアノ:多久潤子

=休憩=

平野達也: 3つの小品 (2004) (初演) 
ピアノ:後藤國彦
  
後藤國彦: 調和数列?(返歌) (初演) 
ピアノ:後藤國彦

長谷川慶岳:monologue for piano (再演) 
ピアノ:長谷川慶岳

松浦伸吾:
「雨の器、蛍昇り」のための素描  (初演)
その他

ピアノ:松浦伸吾

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=曲目解説=  

深澤倫子:
ハリネズミのためのやる気のない子守唄  (初演)
夕べ見た夢 ver.080607 (改訂初演)

ピアノ:深澤倫子

最近は、以前のような暗示的で現実離れした奇妙な夢は見なくなった。
しかし、朝、目が覚める前、夢から現実に引き戻されるほんのわずかな時間に、なんだか無意味で乾いた剥き出しの心の奥底の部分を感じるようになった。 そして、ベッドから起きだして足の裏が床についた時にあきらめの気持ちになり、コーヒーのポットに手がかかる頃には、そんな感覚も夢で見たことも、その日のやるべきことの波にのまれてどこかへなくなってしまう。毎朝このことだけは変わらない。本当の自分が現れる瞬間なのかもしれない。


近藤浩平
アトリエの古い画帳 作品89 (再演) 
第1曲:教会の尖塔 
第2曲:ワルツの余韻 
第3曲:夜の騎行 
第4曲:シエラネバダの雪 
第5曲:海と断崖の風景 
第6曲:湖のある風景

ピアノ:轟木裕子

ロマン派の性格的な小品集のようなものを書いてみたいと思った。
ロシアか東欧の宗教音楽、あるいはラフマニノフの鐘のような和音を思い起こさせる第1曲、ヨアヒム・ラフの交響曲第5番「レノーレ」のような夜の疾走の音楽やスクリアビン的なピアノの扱いを思わせる第3曲、グラナドス的な第4曲、アイルランド的あるいはイギリス近代的な語法が潜む第5曲など、様々な過去の音楽への参照が発見できて楽しめるはずだが、トータルとしては、決してチープなパロディや過去の音楽への後戻りを意図したものではない。2007年9月15日、神戸北野のアコースティック・ライブ クレオールにおける、『それぞれのピアノ それぞれの作曲』にて園田文子氏のピアノ独奏により初演された。
PTNA全日本ピアノ指導者連盟から楽譜が出版されている。


近藤浩平
風変わりな場所 作品97 (初演) 
第1曲:風向きの変わる岬
第2曲:峠の廃村
第3曲:名ばかり国道の夜
第4曲:南から来た旅行者
第5曲:渓流の略奪点
第6曲:西から来た旅行者
第7曲:猪達のいる所
第8曲:森の中の丸い岩
第9曲:東から来た旅行者
第10曲:姿の見えない鳥
第11曲:青い沼

ピアノ:轟木裕子

「アトリエの古い画帳」が、ロマン派ピアノ音楽的に良く響き、抒情的で美しく仕上がった小品というものを意図していたのに対し、この曲集は、そこからはみ出した小品集といえる。商業音楽的な流麗さをはぎ取られたポピュラー音楽あるいはラテン音楽的なもの、民俗音楽のニュアンス断片的な記憶、ストラヴィンスキーからミニマル音楽までのリズム操作の断片のようなもの、拍節に縛られないアジアあるいは日本の音楽の節のようなもの。雑多なものが、「今、何故、この様式、この技法で書くのか?」というきっちりとした作曲意図の説明のできない状態で、整理されない状況のまま並べられている。
しかしながら、これを、小品集としてまとめてみると、現代の田舎の風景の現実を見るような一連の旅の音楽となった。日本でも海外でも、僻地でも、そこそこの田舎でも、現代では、ロマンチックな旅人が理想化するような典型的で純粋なローカルな風景は見られなくなりつつある。
以前の作品、歌曲集「うみ山のあいだ」などでは、失われつつある美しい日本の山村の風景や生活を歌った。しかし、現実の日本の地方の風景は、狭い谷間の村よりも太く大きな道路が頭上を横切り、田畑は土砂で埋められて資材置き場にされ、渓流は砂防ダムで切り刻まれ、山桜が切られてソメイヨシノが植えられ、シャガやツユクサやホタルブクロが咲いていた美しい谷間が、奇妙な「ふれあい親水公園」になって、コンクリートで固められた石が並べられた河原と、コスモスの乾いた花壇になったりしている。奇妙な偽洋風デザインのホテルの廃墟が葛に覆われている。以前のまま意外にしぶとく残っているもの、ほったらかしになっているもの、持ち込まれた奇妙なものが雑然と混在している現実の田舎の風景。



板津昇龍:
10の小さなピアノ曲集「Magic Hands」 (再演)
ピアノ:多久潤子

この作品は、A.ウェーベルンの(b-a-c-h)セリーを多様に展開して構成されています。全体は10の小曲集ですが、各曲が個性的に、また全体が一貫性をもつように考えて作曲しました。理論的、構造的でありながら、所々に、コミカルやアイロニイカルな要素を含んでもいます。タイトルの「マジック・ハンズ」はピアニストの演奏している様子から思い浮かびました。この曲を聴くとき、作曲者の手は「マジック・ハンズ」でありうるのだろうか?   

板津昇龍(いたづ しょうりゅう)
1973年生まれ。岐阜県出身。英国ロンドン大学ゴールドスミスカレッジ大学院修士課程を経て、同大学院博士課程で学ぶ。SONY/旺文社学生作曲コンクール作曲部門優勝。2003年文化庁芸術文化支援事業「日本の作曲家2003」に入選。作曲・音楽理論・芸術思想をS.ハリソン、E.グレッグソン、M.フィニシーの各氏に師事。作品は国内外で演奏・放送・出版されている。



檜垣智也:
2008新作 (初演)
ピアノ:多久潤子



平野達也:
「3つの小品」(2004) (初演)
I.Prelude II.Intermezzo  III.Sinfonia 

 ピアノ:後藤國彦

「曲目解説」を、作曲家、本日の演奏者、そして友人でもある後藤氏から私へのメールで替えたい。

〜 後藤氏からの手紙 (2008年2月23日)〜
 きょうの午後、春一番か、こちら(※神奈川県逗子)は強風が吹き、上空は黄砂と思われる砂塵で海側は青、山側は薄い黄色、と、ある種エル・グレコ (※16〜17世紀の画家)のような景色でした。
先日も弾いてみた第一楽章、もやが解けて晴れ上がってくるまでの過程を愉しんで味わいました。
短くととのえられた第二楽章。最終的に抑制されて終わる第三楽章。さきの第一楽章も含めて、内側に込められた思いの深さが伝わってきました。そして各々の楽章内の繰り返しによって変わる風景。ちょうど同じ地域でもその日の天候によって風景が変わることを思いました。
 語法としては「調性」に近いものと言えるでしょう。ただ、このような音楽は19世紀には書かれず、たぶん20世紀でもなく、いや、他の時代や他の場所とかではなく、今(数年前)の平野さんの心の中に、個人的に生まれたものだと思いました。(音楽が時代を超えるということは、時代の先を行くということではなく、時代に制約されないということだと思います。)
(※   )注釈は作曲者

 音楽を語ること、たとえそれが自作品であっても・・・誤解無く、過不足無く、ぶれずに言い得ることを目指すのはとても骨の折れる作業だ。現象的、科学 的、学術的に対象を把握することは常に清々しく気持ちが良い。しかしその作業は恐ろしく骨の折れる作業だ。だからといってそれを放棄することも決して佳しとはしない。
 がしかし、此度、後藤氏の希有にして詩学の素肌に触れ得た言葉を選ばせて頂くことにした。私には後藤氏のように伝えるべき詩的言語を持たない。が、この上なくこの手紙が嬉しかった。



後藤國彦:
調和数列 IV (返歌) (2008、初夏)   (初演)

2008年1月、前田克治さんと共催したコンサートの場で初めてお会いした近藤浩平さん、久しぶりにお会いした平野達也さん。近藤さんが作ってくださった初演の機会の
ために、いま毎日練習している平野さんのピアノ作品への返歌として作曲しました。 クラスターが浅く深く、呼吸を繰り返します。 
生物としての音。 Sound as life.



長谷川慶岳:
monologue for piano (再演)
ピアノ:長谷川慶岳 

今回の作品は5年前に作曲したものに少し手を加え、改題したものです。
本来は2曲よりなる「前奏曲集」だったのですが、本日演奏するのはその第1曲目でタイトルも「monologue」としました。いつものことながら、タイトルに深い意味はありません。7分ほどの、かなりユルい曲です。



松浦伸吾:
「雨の器、蛍昇り」のための素描
ピアノ:松浦伸吾


=演奏者プロフィール=


轟木裕子(とどろき ゆうこ)

大阪音楽大学卒業。同大学大学院修了。
テレマン室内管弦楽団大阪フィルハーモニー交響楽団大阪センチュリー交響楽団と協演。数回のソロリサイタル、デュオリサイタル、ジョイントリサイタルを開催。ニュージーランドストリングクヮルテット室内楽コンサート、日中国交正常化25周年記念コンサートにソリストとして出演。上海、蘇州で上海歌劇院交響楽団とピアノ協奏曲などを演奏。その他、サロンコンサート、チャリティコンサート、アンサンブル等の演奏活動を行う。又、モーツァルテウム音楽院、ニース音楽院国際セミナーにて研鑽を重ねた他、V.マルグリス、J.ナードル、K.ヤヴォンスキ各氏他の教えを受ける。構井初美、梅本俊和、永井譲、故、安川加寿子の各氏に師事。
ベガ学生ピアノコンクール、日本クラシック音楽コンクール、日本ピアノ教育連盟オーディション他の審査員を務める。
2004年度日本クラシック音楽コンクール指導者賞受賞。
現在、県立西宮高等学校音楽科非常勤講師。



多久潤子(たく じゅんこ)

大阪芸術大学演奏学科卒業。同大学専攻科修了。同大学卒業演奏会、東京読売新人演奏会、関西新人演奏会、兵庫県新人演奏会、第38回なにわ芸術祭新進音楽家競演会をはじめ、ソロや伴奏などで数多くの演奏会に出演。第12回堺ピアノ協会定期演奏会にてJ.S.バッハのピアノ協奏曲第一番、2002年関西フィルハーモニィ管弦楽団とリストのピアノ協奏曲第一番を共演。ヴェニス国際アカデミー、第三回夏期オルトーナ文化交流を受講。2003年トスティ歌曲国際コンクール日本予選大会トスティピアノ伴奏賞受賞。同コンクール2007年アジア予選大会にてトスティピアノ伴奏賞2位受賞。日本演奏連盟会員。桑田富美子、大橋敏、津々見富紗子、クラウディオ・ソアレスの各氏に師事。