野村誠さんのポータブル・コンチェルト1月21日初演
野村誠さんとの企画。
持ち運びできる協奏曲の世界が、いよいよ今週、土曜日に迫ってきました。
野村さんが新作についてのプログラムノートを書いています。
野村誠作曲 「ポーコン」ヴァイオリンとポータブル打楽器のための協奏曲
近藤浩平というユニークな作曲家がいる。独学で作曲を学び、昼間はビジネスマンとして働き、休日は世界各地の山々で登山をし、一体いつ作曲するんだ、と思われるのに、次々に新曲を発表している。作風もユニークで、作曲に苦しむことなく、楽しんで音符を書いている。そんな彼と一緒にコンサートを企画できないか、と提案したのは、一年前、東日本大震災が起きるよりも前のことだった。
近藤さんから「持ち運びのできる協奏曲」というテーマが提示された。ヴァイオリンと小物打楽器3人という編成は、ぼくでは発想しない編成だ。カスタネットやタンバリンは、コンとかタンとか基本的には一音しか出ないのに、ヴァイオリンは音域も広く、メロディーから和音からピチカートやグリッサンドやトレモロや、ありとあらゆることができる。これではまるで、喋りまくる主役と、「うん」とか「ああ」しか言わない3人の脇役のために曲を作るようなものではないか!でも、このアンバランスな設定が、面白く感じ、作曲に取りかかった。
第1楽章では、所謂クラシック音楽のような「ヴァイオリン協奏曲」を書いてみたい、と思った。もちろん、普通の「ヴァイオリン協奏曲」では、ヴァイオリンとオーケストラが掛け合いするが、こちらはヴァイオリンと打楽器が掛け合いする「ヴァイオリン協奏曲」になる。そんな掛け合いをシンプルに味わってみたいので、ヴァイオリンと打楽器が交互に演奏する曲を作った。登場する度に、ヴァイオリンが弓で弾いたり、指で弾いたり、と音色を変える。それに応じて、打楽器も楽器を持ちかえて音色を変える。そんなヴァイオリンと打楽器の対話をしているうちに、音楽の世界が深まっていく曲。
第2楽章では、1楽章のような独奏者としてではなく、ヴァイオリンは他の人と対等なメンバーになる。ヴァイオリン、ベル、ウッドブロック、ギロの4つの音は対等になり、打楽器と一緒にリズムを作る。しかし、ヴァイオリンはメロディーが弾きたい禁断症状が出てくるのだ。途中で、どうしてもメロディーが弾きたくなって、突然メロディーを弾き始めるが、ふと我に返って、またリズムに戻る。何度も禁煙を始めるけれど、タバコをやめられない人のように。何度か禁断症状を経た後、気がつくと阿波踊りのようなサンバにのせられて、ヴァイオリンは禁酒を解禁して思う存分宴会をする。得意なメロディーを弾きまくって終わる。2楽章の終わりで観客は拍手をしても良い。
第3楽章は、インドネシアの弦楽器ルバブのようにヴァイオリンを弾いてみたい、という憧れから書いた。インドネシア滞在中、妻がルバブをよく練習していた。ジャワの伝統音楽をそのままヴァイオリン曲にしようと、妻の演奏を録音させてもらって、譜面に起こそうと思ったが、ジャワでは、録音で書き起こすのは邪道で、耳でコピーするのが正統。そうやってコピーする間に変わっていくことも伝統なのだ。そこで、妻に数回ルバブで「ウィルジュン」という曲を弾いてもらい、印象的なフレーズだけ書き起こしたが、既に、それはジャワ音楽とは異質な音楽だった。その音楽は、インドネシアの音楽のようでありながら、日本の民謡のようでもあり、ふと、インドネシアで見た儀式の情景が思い浮かび、架空の儀式を回想しながら、音楽を書いた。
「ポーコン」とは、「ポータブル・コンチェルト」の略。
野村誠作曲 「きせかえコンチェルト」ヴィオラと鍵盤ハーモニカと打楽器のための二重協奏曲
「きせかえコンチェルト」は、近藤浩平の「ポータブル・ヴィオラ協奏曲」の第1楽章の着せ替え曲だ。どういうことかと言うと、近藤さんの書いたヴィオラパートを一音違わず同じにして、そこに、野村テイストの鍵盤ハーモニカと打楽器パートを着せることで、全く違った印象の音楽に作った。何曲も新作初演しなければいけない中島久美さんの負担を、少しでも軽減するためには、どうしたら良いかと考えた末に思いついた。自分の神聖なる音楽が別の形になることを拒まず、是非聞いてみたい、と提案を快諾してくれた近藤さんのおかげで、実現。そして、生まれた音楽は、野村テイストの中に、近藤テイストが隠し味で入っている音楽で、こういう作曲の仕方をしなければ、ぼくは決して書かなかったであろう音楽。自分の領域を他人とこうやってシェアできる作曲法は、今後も追求していきたい。鍵盤ハーモニカとヴィオラがハイスピードにやりとりしながら、それを打楽器が応援したり、刺激を与えたりする曲で、鍵盤ハーモニカのパートは自分が弾くので遠慮せずに難しくしてしまった。現在、後悔しつつも猛特訓中。自分で書いたのだから文句言えないし。
コンサート概要
2012年1月21日(土)16時30分開場
野村誠&近藤浩平&Ross Carey ポータブル・コンチェルト
持ち運びできる協奏曲の世界
企画:野村誠、近藤浩平 協賛:TOA株式会社 制作協力:株式会社ジーベック
入場料:1000円 予約・問い合わせ:R5656m@aol.com(近藤)
第1部 ロス・ケリーによるピアノ・ミニリサイタル
野村誠:ピアノのための21の小品「福岡市美術館」(2009)より
「房州海岸」
「泰西風俗図屏風」
「偶然の墓碑」
「仰臥裸婦」
「ゴシック聖堂でオルガンを聞いている踊り子」
「福岡市展望」
「ただよへるもの」
「茨の径」
「騎手」
「紅い羽状」
「百鳥図」
「日光菩薩立像」
Gillian Whitehead: 「5つのオタゴの風景」 (2009)
「消防サイレンと霜」
「線の散歩」
「ウズラのいる風景」
「立ち上る霧の輪郭」
「川の話」
Ross Carey: 「9月の歌」 (2000)
Ross Carey: 「B.A.C.Hによる瞑想」(2000)
近藤浩平: 「海辺の雪〜震災と津波の犠牲者への追悼」 作品122 (2011)
ピアノ独奏 ロス・ケリー
震災に関わるピアノ作品も演奏。ポータブル・コンチェルトの演奏前に、ニュージーランド出身で現在、マレーシアで活動している作曲家・ピアニストのロス・ケリーが、自作、野村誠のピアノ作品、
ニュージーランドの作曲家の作品や、近藤浩平が東日本大震災の後に作曲した「海辺の雪〜震災と津波の犠牲者への追悼 作品122」も演奏します。
ロス・ケリー(Ross Carey)ニュージーランド生まれ。ピアニストとしては、アジア、環太平洋の作曲家の作品を積極的に取り上げ、インドネシア、シンガポール、ニュージーランド、オーストラリア、香港などの現代音楽祭に出演。「マレーシア作曲家シリーズ」の第1回から関わり、マレーシアの作曲家の新作を数多く初演する。作曲家としては、イギリス、韓国、ウクライナ、カナダ、ブラジル、オーストラリアなど、5つの大陸で作品が上演されており、2010年「アジア作曲家会議」(東京)でも作品が演奏されている。最新作は、作家のメリル・フィンドリーとのコラボレーション。マレー工科大学(UiTM)音楽学部専任講師(作曲/ピアノ)。
第2部 ポータブル・コンチェルト 持ち運びできる協奏曲
近藤浩平:ヴァイオリンと打楽器の為の協奏曲 作品110 (2009)(関西初演)
野村誠:「ポーコン」ヴァイオリンとポータブル打楽器の為の協奏曲(2011)(世界初演)
Ross Carey:「ソナチネ」ヴィオラと3人の打楽器のための (2011)(世界初演)
近藤浩平:ヴィオラと鍵盤ハーモニカと打楽器の為の協奏曲「ポータブル・ヴィオラ協奏曲」作品125 (2011)(世界初演)
野村誠:「きせかえコンチェルト」ヴィオラと鍵盤ハーモニカと打楽器の為の二重協奏曲 (2011)(世界初演)
ヴァイオリン/ヴィオラ:中島久美
鍵盤ハーモニカ:野村誠
「協奏曲(コンチェルト)」といえば、独奏がオーケストラをバックに、大ホールでのオーケストラ演奏会という大掛かりな催しもので演奏する形態です。ところが、この企画では、コンサートのレパートリーとなる本格的な協奏曲でありながら、数人の音楽家が持ち運びのしやすい楽器を持って出かけていけば、小さなサロンでも、ライブハウスでも、山小屋でも、自宅でも、野外でも、低予算で原曲編成のままの出前演奏が可能な編成で書かれた「協奏曲」を作曲。コンサートホールにも、様々な場所にも展開できる新しい協奏曲の世界を、野村誠、近藤浩平、ロス・ケリーの3人の現代音楽作曲家による新作で、ジーベックホールから出発させます。
ヴァイオリンまたはヴィオラの独奏と、打楽器など3人の演奏の共演です。
中島久美(ヴァイオリン/ヴィオラ)
東京藝術大学附属高等学校を経て、同大学をヴァイオリン、同大学院をヴィオラで修了。第5回日本室内楽コンクール第2位受賞。
1995年より5年間、桐朋学園大学にて嘱託演奏員を勤める。その後アムステルダムで、J・クスマウル氏の下更なる研鑽を積む傍ら、ダンスと声を使った即興パフォーマンスなどを学ぶ。
ポルトガルの音楽祭において、アンナ・ビルスマと5重奏を共演。帰国後2004年より、自身のヴァイオリン&ヴィオラと様々な楽器のコラボレーション企画シリーズ「二声鳥のコンサート」を開始。07年11月にVol.5 を開催した。その他の、多ジャンルにわたる演奏、録音、編曲などの活動に励み、新たな展開を見せる。
ヴァイオリンを鷲見四郎、澤和樹、久合田緑、J・マウラー。ヴィオラを菅沼準二。室内楽を岡山潔、ゴールドベルグ・山根美代子、田中千香士の各氏に師事。アンサンブル東風のメンバー(ヴィオラ)
打楽器奏者プロフィール
駿田千佳(打楽器)
マリンバ・打楽器奏者。全国で演奏活動。
マリンバデュオsoyでは1stアルバム「she`s gone」を発売。
深川和美の童謡サロンに参加。上海太郎カンパニー主催ミュージカルにてアーティスト兼キャスト出演。するたマリンバ教室主催。
現在ベルリンで研鑽中。
片岡祐介(打楽器)
打楽器奏者、作曲家。
1969年生まれ。愛知県豊橋市で育つ。少年時代に独学で、木琴やピアノの演奏をはじめる。
名古屋市立菊里高校音楽科を経て、東京音楽大学で打楽器を学ぶ。
商業的なスタジオミュージシャンを経て、1997年〜2000年に岐阜県音楽療法研究所に研究員として勤務。障害者施設や高齢者施設、病院などの様々な場所で、即興音楽セッションを行う。
2006年度、NHK教育テレビのエキセントリックな音楽番組「あいのて」に「黄色のあいのてさん」としてレギュラー出演し反響を呼ぶ。
マリンバ奏者として、新作の委嘱、演奏活動を数多くおこなっている。
CDに片岡祐介と子どもたち「ポリフォニック・パーカッション」(NPO法人クリエイティブサポートLet’s)、著書に「CDブック 音楽ってどうやるの」(野村誠と共著:あおぞら音楽社)がある。
薮公美子(打楽器)
1982年大阪生まれ。京都在住。パーカッショニスト /作曲家。桜美林大学で音響を、文化庁在外研修員としてヨーク大学大学院で共同作曲を、インドネシア政府奨学生としてインドネシア国立芸大ジョグジャカルタ校にてガムランを学ぶ。主に中東の打楽器“ダルブッカ”やインドネシア の”ガムラン”を演奏する。モモンガ• コンプレックス『ウォールフラワーズ』にて音楽を担当。音楽を担当した映画『歓待』(監督:深田晃司)が第15回プチョン国際ファンタスティック映画祭(韓国)NETPAC賞(最優秀アジア 映画賞)受賞。海外では、Ergodos Festival (アイルランド) に出演。Buxton Festival (イギリス)ではガムラン演奏および、観客参加型の作品を発表し好評を得る。Kontraste Festival(オーストリア)にて野村誠の即興音楽プロジェクトI-Picnicに出演。Yogyakarta Gamelan Festival 2011 (インドネシア)に出演。
作曲者プロフィール
野村 誠(のむら まこと、1968年 - )
8歳より作曲を始める。92年に、自身のバンド「プーフー」で、Epic/Sony RecordsよりCDデビュー。その後、イギリス・ヨーク大学大学院で学ぶ。第1回アサヒビール芸術賞、JCC ART AWARDSの現代音楽部門最優秀賞などを受賞。作曲活動は、オーケストラ、室内楽、ガムラン、和楽器など幅広く、お年寄りや子どもなどとの共同作曲作品もある。著書に「路上日記」(ペヨトル工房)、「即興演奏ってどうやるの」(あおぞら音楽社)、CDに「せみ」(Steinhand)、「INTERMEZZO」(Airplanelabel)、「しょうぎ交響曲の誕生」など。鍵盤ハーモニカのアンサンブル「P-ブロッ」での演奏活動、ピアノなどによる即興演奏なども行う。05年はインドネシアでタイと日本との3カ国アートプロジェクトをプロデュースした。「あいのて」(NHK教育・番組)監修、「赤のあいのてさん」として出演。
近藤浩平(こんどう こうへい 1965年-)
関西学院大学文学部美学科にて畑道也氏に音楽学を学ぶ。作曲は独学。2008年日本の音楽
展・作曲賞入選。2010年ベルリン・ドイツ・オペラ<Klang der Welt Ostasien(世界の
音・東アジア)>作曲コンクール第2位(室内楽)。2006年にはピアノ協奏曲が福村麻矢
氏の独奏、パオロ・フェッラーラ氏指揮の関西フィルハーモニー管弦楽団によって初演さ
れた。江森國友氏、森永かず子氏の詩による歌曲や、野村誠氏の委嘱による鍵盤ハーモニ
カの為の作品などもある。作品はマザーアース、日本作曲家協議会などから出版されてい
る。日本作曲家協議会会員、日本現代音楽協会会員。兵庫県宝塚市在住。山や自然に関
わる作品が多い。http://koheikondo.com