もうひとつの想定外 巨大ダムのこと

八ツ場ダムの建設が再開される。巨大ダムは下流に住む人の目につかないところで着々と作られ、建設立地が景勝地など自然環境で有名な場所でないかぎりは大きな話題になることも無く、こっそり進んでいく。
例えば尾瀬に計画されたダムが昔、反対によって中止された名残が、尾瀬東京電力の管理地である理由である。北アルプスで、上高地をダムで沈めるのは誰もが反対するだろう。しかし、上高地梓川から槍ヶ岳をはさんだ反対側の高瀬ダムのことを知っている人はどれくらいいるだろうか。高瀬渓谷が失われたことなど多くの人は知りもしない。

さて、今回の震災で、堅牢とされた原子力発電所が、思っている以上に、地震津波に脆弱であること、また放射能によってわずか40年で強度劣化していくことが認識されたが、関心が津波に集まっている状況を利用して、津波対策だけで原発は安全になったことにしようと国や電力会社はすすめている。
今回の東日本大震災は直下型ではなく震度は阪神・淡路大震災に比べて小さかった。
地震直後、きれいなままの町を、津波がのんでいく映像を見て、地震の揺れに対しては日本の建築物はずいぶん丈夫になったので、後は津波への対策を上乗せすれば良いと考えている東日本の人も多いのではないか?

もう12月。1月17日にあった阪神・淡路大震災のことを思い出してほしい。
あの地震では、国も企業も壊れないと言っていた高速道路が崩壊し、新幹線の高架も落ちたのだ。
ビルは倒れ、多くの家屋が木端微塵になり、裏山の地滑りが家を飲み込んだのだ。
日本のコンクリート建造物は、地震によっては壊れないとカルフォルニア地震の後、専門家や行政が言っていたことは根拠がないことがこのとき露呈した。阪神・淡路大震災と同等の直下型震度7原発が襲われた際に起こる破壊については、今でも「想定外」である。
多摩川流域は小河内ダムが決壊した場合の被害想定マップを用意しているだろうか?

災害というものは、異なった種類のものがやってくるものである。

さて、コンクリートの建造物のことである。コンクリート建造物は、わずか数十年前に建てられた建築でさえ老朽化と言われるほど寿命が短い。日本の多くの橋脚などの建造物の老朽化が一気にやってくることへの危惧もある。コンクリート中の鉄筋の老朽化の問題さえもあまり多くの人は知らない。

八ツ場ダムの建設が再開されそうだ。
多くの人は存在すら忘れているが、岐阜県徳山ダムは岐阜、愛知の背後の山の上に浜名湖の水より大量の水を蓄えている。これらの巨大ダムが地震に襲われた際の強度はどうなっているのだろうか?
地震は単に揺れるというものではなく、ある土地とある土地との距離が変化するものである。ダムをはさむ二つの尾根筋の距離が変化した時、ダムは伸縮みできるだろうか?
濃尾地震震源地にも近い徳山ダムが直下型の大地震に襲われた場合、決壊のリスクはどの程度であろうか?
そんな想定評価など徳山ダムの管理者はしていない。
あるいは構造欠陥や将来の老朽化による崩壊など事前に発見されていないリスクはないのであろうか?
徳山ダムが決壊した場合、揖斐川下流はどうなるだろうか?
想定外である。
八ツ場ダムの建設によって100年に一度の大雨に対処できる治水をするそうだ。
利根川水系の流量に占める吾妻川の占める割合はごくごく一部にすぎないので大きな効果は望めない。
一方、今後100年のうちに(100年後にはかなりコンクリート老朽化の深刻なダムになっている)このダムが大きな地震に襲われる確率はどう想定されているだろう?
ダムの決壊というものは、まだ日本ではまだ大きな事故は起こっていないが、海外では発生している

セントフランシスダム決壊。カルフォルニア。死者600人。
エスポーラ水力発電所ダム。ブラジル。多くの農場が水没。

ダム決壊に目を向けたが、ダム本体の強度が完璧でも、こうした事例もあり、実はこの事故が過去最大のダム災害である。

イタリアのバイオントダム。
地すべり発生により溢水して死者2,125名。