チェルノブイリ〜死の町の記録」

2011年4月27日のテレビ朝日の報道ブーメランのコラムに、「チェルノブイリ〜死の町の記録」
とある。原発事故からの避難により無人となった町を見た際、田中記者も「死の町」という言葉を使うほかなかったのだと思う。

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2011.4.27.

● 報道ブーメラン 第578号 ●
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 〓 目次 〓

 ■01■「空しき『だから言ったじゃない』」
      前 報道ステーションコメンテーター/一色 清

 ■02■記者コラム
      「25年目のチェルノブイリ〜死の町の記録」
      モスクワ支局/田中 良介

 ■03■お知らせ
       4/29(金・祝) ひる1:20〜5:54 放送
      『ANN報道特別番組 「つながろう!ニッポン」
              〜テレビが伝えたこと 伝えたいこと〜』

 ■04■編集後記


02■記者コラム
      「25年目のチェルノブイリ〜死の町の記録」
      モスクワ支局/田中 良介
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   死の町の記録I〜棺の意味
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  「俺はボルシチとカツレツ、黒パンとコンポートも」「私はフライ魚にマッ
  シュポテトを添えて…」。社員食堂では昼食メニューを注文する職員が
  列を作る。ごく普通の会社の昼の風景だ。ただ、職員の胸には、その
  日浴びた放射線の総量を記録するサーベイメーターが光る。

  史上最大の放射能漏れ事故から25年、チェルノブイリ原発跡地では、
  すべての炉を閉鎖した2000年以降、今もって3500人以上がチェルノ
  ブイリのために働いていた。官民複合の企業体で、後処理だけを行っ
  ている。

  チェルノブイリ原発は1986年4月26日、試験運転中の4号炉が炉心溶
  融し大爆発した。大量の放射性物質が広範囲にばら撒かれた。事故
  を原因とする犠牲者は4000人と国連は試算するが、実際のところは
  その10倍とも100倍とも言われ、真相は不明だ。情報がまったく開示
  されないまま、爆発後の処理に駆り出された人々や、幼い子供たち
  が多数犠牲となった。

  先月末、ウクライナ政府によるプレス公開の機会を通じてチェルノブイ
  リ原発跡地を取材した。4号炉の前であっても短時間の滞在なら問題
  はないという説明だった。だが管理区域に入る際の検問所を越えて
  まもなく「将来も含めて、何があっても自己責任」という書類には、きっ
  ちりとサインを求められた。

  4号炉に近づくにつれ、線量計の数字が急速に上がってゆく。警告音
  も鳴りっぱなしだ。外に出ると、かすかに風を感じた。4号炉から約100
  メートルの地点から、無残な姿をさらす建物をリポートした。

  線量計の値9.5マイクロシーベルト/毎時、キエフ市内で計測した量
  の約8倍だ。4号炉は現在、「石棺(せきかん)」と呼ばれるコンクリート
  製の構造物で覆われているものの、老朽化が進み、亀裂から新たな
  放射線漏れを起こしている。

  このため、この石棺をさらに覆い被せる新たな金属シェルター設置工
  事の準備作業が行われていた。費用はざっと2000億円。後日、25年
  前の事故現場で除染処理にあたった男性に聞いた。「石棺は文字通
  り棺(ひつぎ)さ。あの中には今もたくさんの仲間たちが残されている
  からな…」

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  死の町の記録II〜世界最大の廃墟
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  原発取材の帰路、廃墟となった町、プリピャチに立ち寄った。チェルノ
  ブイリ原発から北西に約3キロ、当時原発で働いていた職員や家族ら
  5万人が暮らしていた。

  ソ連時代の高層アパートが林立し、ホテルや学校、ショッピングセン
  ター、遊園地、映画館と何もかもそろった町並みは、そのままの状態
  で25年の時を刻んだ。

  誇らしげにそびえたつ観覧車や自動車の遊具も赤茶けた錆こそ浮か
  び上がっているものの、子供たちの笑い声が幻聴のように耳に響く。
  少し先の小学校には、まだ採点されていない答案用紙の束や黒板に
  書かれたロシア文字がそのまま残っていた。

  当時、この町の住民には3日分の食料を持って避難するよう指示が出
  され、次々にバスに詰め込まれた。しかし2度と戻ることはできなかっ
  た。

  街路樹として植えられたポプラの木は、建物の高さを大きく超え巨木
  となっていた。専らこの「世界最大の廃墟」の今の住人は、野生化し
  た犬やネコ、鳥そしてキツネやオオカミ。人だけが消えた廃墟の風景
  は人類滅亡を題材にしたSF映画のセットそのものだ。

  今年から、チェルノブイリ原発とこのプリピャチを見学するツアーが一
  般向けに始まった。敷地内のものを持ってこないなど最低限のルール
  を守れば特に制限はない。

  閉鎖ゾーン内での車代とガイド付きで費用は一人600ドル(5万円)。
  ウクライナ政府は、悲劇の跡を身近に知ってもらい、観光収入にもなる
  という理由で許可を出した。安全性にも問題はないという。

  その夜カメラマンと私はドーンとした頭痛に襲われた。もちろん取材と
  の因果関係はわからない。着ていた服や靴はゴミ袋に入れて捨てた。

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    死の町の記録III〜再生へ
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  チェルノブイリ原発から西へ70キロ。そこにはカテゴリー2として避難
  推奨地域に指定されたナロジチという村がある。事故の影響で農地
  は汚染され、今も基準値を大きく超えるセシウムストロンチウム
  検出される。

  ここではアブラナを使った土壌汚染の改良プロジェクトが進んでいる。
  日本のNPOチェルノブイリ救援・中部が最初に始めた事業の一環
  で、アブラナが土壌に含まれる放射性物質を効果的に吸収すること
  を利用して土地の浄化を進めてゆくものだ。

  アブラナから収穫したナタネからバイオ燃料を作る。国立ジトーミル農
  業大学のニコライ・ジードゥフ教授に農地を案内してもらった。今は肥
  沃な黒土をさらけ出す農地だが、6月には一面に黄色の花をつける。

  「土壌に含まれる放射線物質を減らすのは容易なことではないが、一
  つ言えるのはこの菜の花プロジェクトが確実に効果を生んでいること
  だ。この土地の放射線量は25年たってやっと40%に減った。支援して
  くれた日本に感謝している」と教授。

  事故の後、ナロジチ村の住民は3分の1に減った。しかし、あちこちの
  農地で始まった浄化プロジェクトで、住民は希望を取り戻した。最近は
  子供の数も増えてきたという。

  4月1日発行のナロジチ村地元紙の一角に「チェルノブイリ事故のとき
  に一番力になってくれた日本を救おう」という募金を呼びかける広告が
  掲載された。遠く離れた日本のことをみんな忘れていない。

  村の幼稚園に足を運ぶとかつて日本の子供たちが贈った日本語とロ
  シア語で書かれた手紙が飾ってあった。「チェルノブイリの子供たちへ。
  みんな一人じゃない。がんばって。日本の友達より」

  園長先生は、私が日本人だと分かると未曾有の惨事に見舞われた日
  本国民への哀悼と連帯を示し、熱烈に歓迎してくれた。そして「今度は
  私たちが日本に恩返しをさせていただきます」と募金活動や手紙を書
  いていることを教えてくれた。

  取材を終えて村を出るとき、先生に引率された5人の女子中学生グル
  ープが近づいてきたので「今、幸せですか?」と聞いてみた。5人はそ
  れぞれ「幸せです」と笑顔で答えた。そして日本に対し「あきらめない
  で進めば、必ず乗り越えられます」。放射能汚染と闘う町の住民は、
  確実に再生へと動き出していた。

  大切な人を失い、大切な土地を失った。なお重い放射線障害に苦しむ
  住民たちの傷は、何一つ癒えていない。

  一方で前述のように汚染された村に再生への希望の光がさしている
  のは喜ばしい。ただ、一度の事故が25年経った今も続く事故処理と
  重い経済負担は逃れられぬ足かせとなり、時には国を滅ぼす。

  最新の世論調査(世論財団4月25日)で、ロシアでは国民の8割が再
  びチェルノブイリのような事故が起こるのではと懸念していると伝えた。
  原発輸出国の国民の意識だ。

  「地震の多い日本はわれわれから学ばなかったのか」。ナロジチ村の
  古老が言った。なおさら地震多発国日本の国民として一人一人が改
  めて考えてみるときではないか。(了)

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