ピアノ協奏曲 初演

2006年12月19日
大阪 いずみホール ピアノ独奏:福村麻矢 パオロ・フェッラーラ指揮関西フィルで、ピアノ協奏曲が初演されました。

非常に大曲で難曲ですが立派な演奏でした。

 第1楽章冒頭で縦がずれる事故があり、冒頭の10小節強はオーケストラとピアノがずれてしまいました。このため、和声的にも混濁してしまい、基本のテンポ感も共有されない状態に陥りました。。第1楽章のいわばパッサカリア主題の最初の提示が見えなくなってしまったので、聴いている方は曲の形式が把握しにくかったかと思います。
拍子は4拍子でシンプルなのですが、オーケストラ、ピアノ、ティンパニが16分音符一つずつの間隔で入る1小節目の入りはいささかお互いにテンポ感が共有しにくく非常に合わせにくいのです。リハーサルでは上手くいっていましたが演奏は生ものです。
どうなるかと思いましたが、冒頭から1分ほどでピアノとティンパニでテンポが速まる箇所の手前で正常に戻っています。

本来は決然とした4拍子で、和音のテーマがオーケストラで提示され、その和声領域にピアノが調和するように書いてあります。
 ホールの残響が豊かなので、第1楽章前半の線的な書法は、響きすぎてぼやける傾向がありましたが、これは作品構造とホールの残響の相性のことであり弦楽器の線がホールの豊かな残響で輪郭がぼやけて霧がかかったように響きが飽和する傾向がありました。
もう少し、残響の短めのクリアなホールですと弦の急速なパッセージもより生々しく緊迫感をもったかもしれません。
 残響の少ない練習場ではこの第1楽章が明晰に面白く鳴っていましたので、また他のホールでは響き方が変わるでしょう。オーケストレーションそのものは、作曲者として狙ったバランスと音色、効果通りで鳴ってはいました。
 ゲネプロでは客席が入っていないのでピアノの速い部分も響きが飽和して危惧しましたが、本番で客席は埋まると、そこは大丈夫でした。
作品の構造とホールの相性というのがありますね。う〜ん。どう対処したら良いのだろう。
第1楽章の終盤の激しいオスティナートの部分は、効果的に鳴ったと思います。
第1楽章、ピウ モッソ 以降のピアノは流麗な演奏で音色、リズム感な曲想どおりの疾走感や自由に走る感じが実現されていました。とくに中間部で音量を下げて弦の和音のうつりかわりの中を気儘に漂うように走る部分は良かった。

第2楽章の冒頭、オーケストラとピアノのバランスは良かった。
後半のフガートのような、急速なポリフォニックな音楽は、いずみホールの残響に向いていない気がした。しかし、このフガートにかぶさるピアノのパッセージが鮮やかに演奏されたのは嬉しい。

第3楽章、第4楽章は音楽の性質的にホールの響きとの相性は良かったように思います。
音の少ない第3楽章にはホールの残響が非常に味方していました。
第4楽章でも1箇所入りが1小節ずれる事故がありました。

演奏は後半にいくほど、曲のリズム感が共有された演奏になっていたと思います。
エストロの曲のリズムや旋律の性格、和声の移り変わりの把握のセンスは素晴らしい。
曲の構造を明確に聴かせる正確さ、冒頭の事故、多声的な部分でのバランスなどいくらか残念な部分があったが、これはリハーサル時間の不足とホールの音響の予測の難しさもある。
あと6時間のリハーサルが欲しかったとマエストロは言っていた。
福村さんのピアノ、あの至難な第4楽章の変拍子、とりわけ見事。
第1楽章の後半の弱音で漂うあたりのリズムの表現と強弱のコントロール、この馴染みのないタイプの曲想をうまく把握していたと思う。第2楽章、完成度高く安心して聴いていられた、とくに後半、弦のフガートに被さるパッセージがくっきりとしたリズムでいくところは痛快。


作曲者として特に、気になるのは、オーケストラのメンバーの方々が弾きがいのある面白い曲と感じてくれたかどうか。
「よくわからん」というところもあったとは思いますが、結構、楽しんで弾いていただけたように見えましたが如何でしたでしょう。
関西フィルの皆様、素晴らしい演奏、ありがとうございました。

普段、定期演奏会で聴く関西フィルの完成度の演奏で、聴き直してみたい。
あと、リハーサルが1日あれば、どんな演奏になっただろうか。


私の前に演奏された吉田美香さんの、しの笛の協奏曲。
ホールの豊かな響きと実にフィットして、美しく鳴っていた。
練習会場ではオーケストラのあまりに豪奢な響きに押される危惧も感じた独奏部分は実際の本番のホールでは十分に響いて存在感が確保されていました。
ああいうオーケストレーションは、私にはできないなあ。