ピアノ協奏曲の解説

20世紀において、作曲家達は音楽の世界を拡大することに大きなエネルギーをかけた。現代作品を難しいものにする副作用も大きかったが、このことは様々な文化や価値観を背景とした多様な音楽を作曲する自由をもたらした。21世紀においては、作曲家は日常の演奏レパートリーを供給することを強く意識するべきだ。日々の新しい出し物を供給し、日常の演奏レパートリーを乗っ取っていこうという野心を抱くべきだ。これが本当にラジカルな変化をクラシック音楽にもたらすことになる。

 ピアノ協奏曲 作品84   2005年10月から作曲を開始し、2006年5月に完成。

第1楽章 
強い推進力と必然性をもって走るピアノ。生命力のある自由な疾走感と、広々とした空間感覚をもったハーモニーの共存。
冒頭の木管の和音主題に基づくパッサカリアあるいはシャコンヌ的な発想があり、ブリテンホルストなどのイギリス近代音楽的な形式感覚が潜んでいる。リズム感には、クラシック音楽的ではない運動感覚がある。20世紀は世界の様々な音楽のリズムが混淆し雑種化した時代。

第2楽章 
呪文のような執拗さと集中から始まるが、やがて拡散し、意外な優しさに到達する。後半に、バロック時代の活発な音楽やヒンデミットの音楽のような、生き生きとした休息の音楽が用意されている。

第3楽章
密やかな妖しさをもった非常に繊細な歌。
長崎県の詩人、森永かず子氏の詩による歌曲を書こうとした際に、その響きに触発されてスケッチした素材が、詩に沿った歌曲という形をとらずにこのような音楽になった。

第4楽章
重さをもった前進する音楽が結論をもたらすかのように見えるが、実はそれは、何か辿り着くべき音楽空間を模索するもの。辿り着く音楽空間として幾つかの異なった自作の音楽が引用される。その中には、未発表のオーケストラ歌曲や、森永かず子氏の詩による歌曲や、室内楽曲がある。

全4楽章のピアノ協奏曲は、ブラームスの第2番(1881年)が知られているが、リトルフ(1818~1891)の交響的協奏曲第2番(1844年)、交響的協奏曲第4番(1851~1852年)という先例がある。