大阪大学宮崎慶次名誉教授の原子力に固執する技術観について

朝日新聞2014年1月18日付朝刊、「私の視点」において、大阪大学名誉教授、宮崎慶次氏が次のようなことを述べている。これが大阪大学という最高学府の一つで名誉教授という地位を得ている人の技術観のレベルなのだろうか。
?「自動車が進化をとげてきたように、一般に新型炉は安全性と経済性ともすぐれている。今後は、古い旧式原発を最新設計の原発の建て替える経営判断が大切」
?「ウラン資源に限りがある。将来的に高速増殖炉と再処理で核燃料を増やしながら使用するのが国家百年の計にかなう。それこそが百年千年とエネルギー文明の持続を期して原発を推進する正当性だ」
?「1999年に旧核燃料サイクル開発機構(現日本原子力研究開発機構)が出した報告書『わが国における高レベル放射性廃棄物地層処分に技術的信頼性』を読むと、地層処分は技術的にはすでにめどがついている。」
?「日本の方式は使用済み核燃料をそのまま地下に埋める直接処分と違い、使用済み核燃料を再処理して、半減期が長いウランとプルトニウムを回収して再利用するので安全性は高い。残りの高レベル放射性廃棄物をガラスに混ぜて封じ込め、円筒形の厚さ5mmのステンレス容器と分厚い鋼製容器に入れ、放射能が減衰するまで、周りを防水粘土で固めて数百メートルの地下に隔離する。」
?(地層処分の)「安全性の評価では、古代遺跡からの試算で鉄容器の1千年の腐食量を32mmと評価。鋼鉄容器の厚さは19mmあるので、筆者は十分に持つと思うが、評価では控え目に1千年以上持つとしている。」
?「地下では地震の影響は小さく、仮に倒壊しても隔離に問題はないはずだ。地震と火災流で埋まったポンペイ遺跡では2千年もの間、人の形まで保存された。」

「自動車」が進化を遂げてきたように、「発電機」は進化を遂げる。
ある目的のための技術が実用化し製品化する中で、機械であれ、薬品であれ様々な方式・原理によるものが発案され、試験され、様々な実用化テストを経て、特定の方式が生き残り、他のものは淘汰される。駆動装置なども様々な原理が理論的には考えられる中で、安全性、経済性などから淘汰され、現在採用されている方式が絞りこまれている。
「自動車」といいう概念は、「発電機」という上位カテゴリーに相当する。
たとえば「自動車」には様々な設計、走行原理が考えられる。しかし、欠陥のある方式は捨てられ、他の方式が生き残る。ロケットエンジン蒸気機関による自動車は見かけない。1970年頃の未来本にある「原子力自家用車」など売っていない。
「発電機」は発展する。その中で、「原子力の熱で水を沸騰させてタービンを回す」という方式のものは、今回の事故で、非常に高コストで安全性に不安を抱えており、廃棄物処理先が確保されていないという問題が露呈した。
発電機は今後、様々な原理のものが進化を遂げる。このため、「原子力発電」という技術方式は敗退する。この状況を、発電手段全般への技術視野を持たない、「原子力」の専門家である宮崎氏は理解できていない。「新しい原発だけが新しい発電機ではない」という基本的なことが理解できていない。
もはや、再生可能エネルギー燃料電池コージェネなどによる発電コスト、省電力によるネガワットが、原子力による系統電力の「発電コスト+社会コスト」に対し優位だということが明らかになってきた現在、エネルギー市場は、たとえ、原子力専門家が安全な次世代原発新設を売り込んでも買い手がつかない。このように将来性の無い技術に、市場も社会も、新規投資の意欲はもたない。
今後、新たな発電機を設置する際、SOFC(トリプルコンバインドサイクル)から再生可能エネルギー燃料電池など様々な選択肢がある中、民間企業が、原発を選択する理由が無くなってきた。
よって、新規原発は新規の発電設備として選択されないので、現存のものが今後10年レベルで寿命を迎えて廃炉となっていき、原発が無ければ、核燃料サイクルの「供給」と「需要」というもの自体が成立しなくなる。
※現存原発の再稼働は、原価償却するまで使いたい、資産としておきたい、動かしても止めても固定費が発生するという、企業の決算、経理上の電力会社の都合が主な主張要因である。

百年、千年と、自分が関わってきた「高速増殖炉と再処理で核燃料を増やしながら使用する方式」が、エネルギー供給技術、発電手段として競争力を持ち続けると思いこむ自信は、他の発電手段の開発状況とエネルギー市場価格の先行きについて素人にすぎない宮崎氏の幻想にしか過ぎない。
彼の主張する「方式」の開発は、もんじゅだけでも一兆円以上を費やし、50年かけても実現していない。その間に、他の「方式」が次々と台頭している。
技術開発の投資先として彼の主張する「方式」の将来性に優位性があるだろうか。
その開発費は「他の方式」の開発者に投資するべきだと思う。

??について、彼は何年間程度の安全維持を考えているのであろうか。
放射性廃棄物が無害化するのは千年単位ではない長期のものである。
また、これを百年、千年と続けると、廃棄物の量は増え、受け入れ先を増やさなければならなくなる。既にあるものは、安全な方法を探して「処分」せざるを得ないが、これを増やし続けるという国家、地球レベルのリスクと負担の増大は避けるべきだ。

?については、原子力技術者が、原子力以外については素人であることを考えなければならない。学者・技術者は、自分の専門領域外のことについては素人である。「原子力」の専門家である宮崎氏が、地中の金属の腐食や、地学について、すぐれた知見と想定力を持っているとは考えにくい。?で彼が持ちだす古代遺跡での「想定」は、あくまで現在残っている遺跡についての保存状況についての「想定」に過ぎない。1千年の腐食量32mmという想定は、現在の残存している遺跡についての事例から割り出したものにしか過ぎない。
残存じている古代遺跡は様々な条件が重なって一部が現在まで残っている。
その残ったケースから想定を行うというレベルで事例サンプルを集めている。
調査は、サンプル抽出の妥当性、母集団の妥当性など、非常に、注意を払わなければ誤った結果が出てくるものであり、また、その推計結果は、統計的には平均を中心にある範囲に分布するかもしれないが、現実的には、他の要因によって分布の様相は簡単に変化することはマーケティングなどに関わった方なら容易に想像できるだろう。
古代遺跡では、残っていないものが多数ある。
河川や地下水の流れの変化、例えば河川の浸食や流路の変化で、遺跡の土地自体が失われている例などもある。海水や地下水の塩分や酸性物質により、通常よりも早く腐食が進むケースもある。マグマの上昇だけでなく高温の温泉の上昇、地熱による変成などが深い地下で発生することも多い。
地下鉄や井戸などの掘削などで人為的に掘り返されるケースもある。
地下水の動きは、地表に流れででこなくてもそのまま海洋へでるなど、なんらか循環している場合が多く、想定は難しい。
地震の揺れ自体は地下では小さいが、地層のひずみ、断層ズレなど、地下での圧力変化や破断などは起こりえる。

地震と火災流で埋まったポンペイ遺跡では2千年もの間、人の形まで保存された。」と宮崎氏は例をあげているが、ポンペイ遺跡のような理想的な形で2千年保存された遺跡は、世界に少なく、河川の浸食や地滑りほか様々な地形変化で失われた遺跡がきわめて多いのが現実である。例にあげたポンペイ遺跡にしても、地下に埋もれて永遠に人間の目に触れることなく残った例ではなく、地上に堀り出されてしまった例です。

核燃料サイクルの机上論で地位を得てきた学者は、潤沢に研究費を得ての自分の研究開発分野に固執し、自らの率いる研究組織の自己保存のために、セラフィールド、スリーマイル、チェルノブイリ東海村、東電福島原発と続いてきた原発関連事故の現実と、原子力を過去の技術に追いやる様々なエネルギー技術の台頭から目をそむけている。