オペラ「パン屋大襲撃」を観てきた

望月京作曲の新作オペラ「パン屋大襲撃」を観てきました。
原作が村上春樹ということも話題。

音響素晴らしく、音楽は洗練された現代音楽であって上品に薄口なポップな味付けもある。アンサンブルも面白い。
どの部分の音も、古い現代音楽の暗さがなくて、小気味好くビート感をもってすすむ。
安直に調性に依存したりもせずに、音響のアンサンブルで音楽が作られていく。
ワーグナーのパロディも効果的で、終幕のマクドの店員やり取りもテンポ良く面白い。

ワーグナーの引用の効果は強烈で、音響のアンサンブルとして繊細に洗練され、薄味にポップに味付けされた音楽の中に、ワーグナーの太書きな音楽が侵入すると母屋を襲撃された感。
オペラの終演後、観客の頭にワーグナーがぐるぐる回ったのではないだろうか。

演出、劇の展開も旧来のオペラの様式ではなくむしろ現代演劇ではなじみの手法を駆使してテンポ良く進むが、セリフのレチタティーヴォの部分は、いささか旧来の現代オペラ風な箇所が多い。しばしば、歌ではなくセリフになる。

ラストのマクドの店員の部分は、面白いけども、この台本であれば演劇で面白い役者がよりリアルに店員風、店長風セリフを演じたら、実は、精緻に作曲するよりも観客にうけてしまうのではないかとも思う。
演劇の世界では、もっと観客を笑わせたり泣かせたりしている。

音楽も演出も音響も演奏も、実にクオリティが高くて感心するのだが、笑ったり、どよめいたり、驚いたり、泣かせられたりという、感情を揺さぶられた感じがないのは、なぜだろうか。そういうクールさを意図しているのだろうか。